【坂間】諏訪大社の特殊神事〜真冬に3カ月もお籠もりする神事があった〜御室(みむろ)神事
諏訪大社は長い歴史を持っています。720年にできた日本書紀に“持統天皇5(691)年に「信濃須波」の神を祀る”と記されている日本最古級の神社ですから。古いゆえ、大昔からの諏訪大社だけの特殊な神事も伝えられています。
今回はその特殊神事の1つ、年末に行われる御室神事について。ご存知ない方も多いと思いますが、それもそのはず、この神事は中世には途絶えてしまいました。その内容はわずかに残された文献に頼るしかありませんが、中には、“くわしくせず”とまで書かれる秘儀も含まれます。そう、詳細は不明、です。でも、わからないからこそ、知りたいと思いませんか。そこにはきっと、古代の諏訪の信仰をうかがい知る鍵があるはずですから。
御室神事は、旧暦の12月22日、穴巣始(あなすはじめ)から始まります。穴巣の名の通り、上社の前宮に設けられた“半地下の御室”と呼ばれる小屋に、上社大祝(おおほうり)=生き神様と、神長官守矢氏を筆頭とした5名の神官らが翌年3月の寅の日まで籠もります。しかも、ワラで作られた蛇3体とともに。さらに、“ミシャグジ神”と“ソソウ神”と呼ばれる古い神様も関わりますが、前述の通り、詳しくはわかりません。また、二十番舞と言われる失われた神楽も奉納されていたとのこと。その後、旧暦の元日には御頭御占神事(その年に大社に奉仕する地区を決める。現在は本宮で実施)、同1月15日には筒粥神事(葦に入る粥の量で1年を占う。現在は下社のみ)、同2月28日には野出神事などが行われていたようです。これらの一連の神事は、生き神様である大祝の力を甦らせるためとも、実りのために生命力を取り戻すためとも、様々に言われます。
《半地下の”穴倉”は、御室のイメージ。映画「鹿の国」でも登場します。》
なお、3カ月のお籠もりが終わると、旧暦3月の酉の日に御頭祭=大御立坐(おおみたちまし)神事が行われます。こちらは、豊作を祈る神事。御室神事での祈りと、本質的にはつながっていたようです。
さて、この御室神事ですが、実は今でも形を変えて、執り行われています。旧暦から遅れること約1カ月、新暦の12月22日にひっそりと。まずは、御室社祭、続いて鶏冠社祭(けいかんしゃ。かつて大祝の即位式が行われた場所)、次に所末社祭(とこまつしゃ。大社の祭事表では政所社=まんどころしゃ)、最後に子安社祭。以上の4カ所を廻り、それぞれで神事が行われます。往時の様子を伺うことはできませんが、かつて古い祭が行われたことを示す微かな印のように今も続いているのです。
《上社前宮境内、御室社前での御室社祭》
《同前宮境内、鶏冠社前での鶏冠社祭》
《同前宮境内、所末社(政所社)の神饌》
なお、今度のお正月に公開される諏訪大社のドキュメンタリー映画“鹿の国”で、失われた御室神事などが描かれているようです。神楽も再現され、にぎやかに。ぜひ、見てみたいものです。諏訪地域では、岡谷市のスカラ座で1月3日から。東京でも、ポレポレ東中野で1月2日から上映。新年早々、落ち着いていられませんね。
※神事の内容、解釈については諸説あります。
※参考文献:諏訪大明神絵詞(復刻諏訪史料叢書第1巻)、年内神事次第旧記釈義、決定版諏訪大社